Heavenly Blue サンプル - コミティア部活動|ヒロイン☆ふぇすた

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(アメシスト「Heavenly Blue」より)

シャーリー・ホワイト
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第一章 共鳴

     1

 シャーリーが怪しい男たちに囚われ、謎の施設に収容されて、何日目だろうか。毎日調査と称して血を抜かれたり、電極を貼った体を、何やら金属の棒やピンセットのようなもので体をいじられたりと、よく分からない人体実験を繰り返される。
 一つ分かったことは、ここは禍人(まがひと)と呼ばれる異能力者たちが捕らえられる禍人収容施設、通称ラボラトリーだということだ。
 シャーリーには禍人である自覚などない。だがラボの研究員たちは、シャーリーを禍人として扱う。無論、単身で逃げ出すことなどできない監視の毎日だ。
 快活だったシャーリーの気持ちは、すぐに淀んだネガティブなものに変わっていった。
 昨日など、意識を失うほど大掛かりな実験をされた。その後から、全身がとてつもない倦怠感で蝕まれている。よって、シャーリーは今朝から、与えられた独房のベッドでだらりと体を横たえていた。
「お母さん、お父さんも……心配してるだろうな……」
 瞼に浮かぶ両親の姿を思い浮かべ、シャーリーは小さく鼻を鳴らす。泣きたいのに涙が出ないのだ。悲しみや寂しさは、彼女の限界を越えてしまったらしい。
「わたし、禍人なんかじゃないのに」
 唯一、独房内では自由に振る舞える。シャーリーはゆっくり体を起こして、部屋の隅に設置された給水器から、水をプラスティックのコップに入れて飲み干した。そのままそこへ座り込む。
「昨日の実験、何をされたのかしら? こんなに体がだるいなんて」
 コップを給水器の上に置き、シャーリーは狭い独房内を見渡す。
 硬いベッドと、衝立の向こうにはトイレ、ドア横の給水器、今朝の朝食の空トレイ。唯一の出入口は電子ロックのカード認証式で、内側からは開けられない。それだけが今、室内にあるものだ。外を見るための窓もない。
 シャーリーはベッドの端に座り、再び体を投げ出した。
「寝ちゃおうかな……どうせまた、調査とかって突然呼びにくるだけだろうし」
 瞼を閉じ、意識を徐々に沈めていく最中(さなか)だった。
 出入口が機械音と共に開いた。

 また調査かと、ゆっくり瞼を開くと、そこにはいつもの白衣を着た研究員ではなく、見知らぬ少年が立っていた。
 いや、たしかこの少年は、シャーリーを路地裏で捕まえた少年だったはず。
 また乱暴されるのかと、シャーリーは身を固くした。
「寝てるの?」
 少年は不思議そうに首を傾けてシャーリーを見ている。まるで邪気の感じられない屈託ない青い瞳は、まっすぐシャーリーを映している。
「な、何ですか? また調査の時間ですか?」
「違うよ。誰かに呼ばれた気がしたから来ただけ。お前が僕を呼んだの?」
 少年はズカズカと無遠慮に室内へと入ってくる。そしてシャーリーの前で立ち止まった。
「僕を呼んだでしょ? 用は何?」
「わ、わたしは別にあなたを呼んでなんか……」
「嘘だ。頭の中に直接声を響かせて、僕を呼んだのはお前だ」
 少年が断定する。しかしシャーリーは反論した。
「わたし、呼んでません」
「呼んだ」
「呼んでないわ」
「呼んだじゃん」
「もうっ! 呼んでないってば」
「呼ばれなきゃ来ないよ!」
 呼ぶだの呼ばないだの、無意味な押し問答が続き、最初に飽きたのは彼だった。
「もういいや。面倒くさい」
 少年は断りもなしにシャーリーの隣へストンと座る。シャーリーは驚いて身を引いた。
「な、なんなの、あなた?」
「僕? 僕はノエル。お前はシャーリーだっけ?」
「名前を聞いた訳じゃなくて……」
 シャーリーはノエルを恐る恐る見つめながら、ぐっと口を閉ざす。
 彼は一体何をしにきたというのだろうか。呼ばれたとはどういう事なのだろうか。
 考えても埒が明かず、シャーリーは彼の様子をこっそりと伺った。
 白みの強い亜麻色の髪と、青い瞳。陶磁器のような白い肌と、細身の体。研究員とは違った青い短衣のジャケットにスラックス。このラボの研究員というには明らかに違う雰囲気の少年だ。もしかして自分と同じように、禍人として捕らえられた者だろうかとも考えたが、あの日、自分を捕まえたのはこの少年だ。やはり彼はラボ側の人間と考えた方がよさそうだ。

 シャーリーはパジャマのような白いワンピースの上から、膝の上に両手を重ねた。
「ノエルさんは……まがひ……」
「僕を変な呼び方するな。僕はノエルだ。ノエルサンなんて名前じゃない」
 彼女が話しかけようとすると、彼は不機嫌そうにシャーリーの言葉を遮った。どうやら敬称を付けて呼んだことが気に入らなかったらしい。それも不思議だと思いつつ、シャーリーは言葉を改めて聞いた。
「ノエル……は、禍人なの?」
「そうだよ」
 短く答える。
「禍人なら、このラボでいろんな人体実験をされてるでしょう?」
 違うと答えられるような気はしたが、質問してみた。
「してないよ。僕は僕だもん」
 予想通りの答えが返ってきた。
「禍人なのに?」
「僕は特別だって、ローレンスは言ってた」
 対話の中に知らない名前が出てきて、シャーリーは首を傾げる。
「ローレンスさんって誰?」
「偉そうな奴」
「態度じゃなくて」
「眼鏡の奴」
「見た目でもなくて」
 全く的を射ていない答えに、シャーリーは少々呆れ果てる。この少年とは会話が噛み合わない。
「ノエルはわたしの所に何をしに来たの?」
「お前が呼ぶから来たんだ」
「だからわたしはあなたなんて呼んでないわ」
 思わず強い言葉が出てしまい、シャーリーは慌てて口を押さえる。
 ノエルはシャーリーを真正面から見つめ、青い瞳を揺らす。全身を眺められているようで、少々居心地が悪い。
「お前が何て言おうとも、僕はお前に呼ばれたんだ。だから来た」
「何度も言うように、わたしは誰も呼んでないわ」
 また押し問答の繰り返しかとシャーリーが呆れると、ノエルはニコッと人懐っこい笑みを浮かべた。
「よく分かんないけど、お前面白いな! お前のこと、気に入った。だから僕の遊び相手になれよ。また来てやる」
「い、今までの会話で、何を根拠に面白いなんて……」
 シャーリーにとっては、得体の知れないノエルと、奇妙な問答を繰り返しただけだ。面白いと感じることもなく、むしろ問い掛けが食い違うことに呆れ果てていたくらいだ。

「おなか減ったから食べ物食べてくる。シャーリーも行く?」
「わ、わたしはここに閉じ込められていて……」
「僕がいればドアの鍵なんて簡単に開くよ」
 言われてみれば、この独房の出入口もノエルが入ってから開きっぱなしだった。逃げるチャンスかもしれないが、このラボの外へ一人で逃げられるとも思えない。
 たとえ運良く外へ出たとしても、このラボがどこにあるのかも分からず、金銭や着替えも持っていないのだ。どう逃げればいいのかまるでわからないまま飛び出すほど、自分は楽観的ではない。
 それどころか、研究員の同行無しにラボを歩き回って咎められた時のほうが、どんな罰を与えられるのか、考えるだけで恐ろしい。
 少なくとも、この独房でおとなしくしていれば、命を危険に晒されることはない。
 シャーリーはノエルの申し出を断った。
「わたしはここにいるわ」
「おなか減ってないの? じゃあ僕だけ行く」
 ノエルは来た時と同じように、開きっぱなしの電子ロックの扉から立ち去った。扉は依然、開きっぱなしだが、シャーリーは逃げたいとは思わなかった。そして残された彼女は、ある意味ホッとしていた。
「変な人だった……」
 開きっぱなしの出入口を自ら閉め、シャーリーは再びベッドに腰を下ろした。そしてノエルのことを思い返す。

 シャーリーに呼ばれたと言ってやってきたノエル。自分勝手な会話を繰り返し、禍人なのにラボを自由に歩き回っている。噛み合わない会話を面白いと称し、またやってくると言って出て行った。
 あえて気に留めていなかったが、彼が傍にいる時、どことなく懐かしい気がしたのは事実だ。それは彼がシャーリーを捕まえた時に一番傍にいたからというものではなく、もっと心の底からの、既視感(デジャヴ)のようなものだった。自分と同じ〝なにか〟を感じていた。
 それがなんなのかは分からないが、彼だけは、このラボで敵ではないと思えた。いや、彼こそが自分を助けてくれるような気さえしていた。
 なぜそこまで彼が気になるのかすら分からない。しかし、閉じ込められたシャーリーの心の中に、彼という一筋の光が差し込んだことは事実だった。

本編へつづく

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