ワンダーランド・オーヴァチュア サンプル - コミティア部活動|ヒロイン☆ふぇすた

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HEROINS 参加ヒロイン&対象作品紹介

(シアワセモノマニア「時計うさぎの不在証明 #01:ワンダーランド・オーヴァチュア」より)

八束結
八束結
八束結

お試し読み

 #01:ワンダーランド・オーヴァチュア

 雨が、降っていた。
 
 八束結(やつづか・ゆい)の記憶を手繰るならば、部屋を出る二十四分前に降り始めた雨は、いつしか地面を激しく叩く大雨となっていた。
 小さな体に似合わぬ大きな紺色の傘を傾げ、底の潰れたローファーで、水たまりを避けながら歩く。その跳ねるような足取りは、踊っているようにも見えた。
 しかし、転属初日から雨とはついていない。
 思いながら、ひときわ大きな水たまりを飛び越える。ほんの数日前にこの町に越してきた八束にとって、勤務地に向かうこの道も、見知らぬ道だ。とはいえ、迷子になるという不安はない。地図はしっかり頭の中に入っているし、方向感覚には自信がある。
 それでも、ふと、不安になるのだ。いくらこの雨とはいえ、ここまで人っ子一人見かけなかったこともそう、八束の身を包むのが雨の音だけであるということもそう。
 寒さからではない悪寒が背筋を駆けて、ぶるりと震える。寒いはずはない。いくら大雨とはいえ、九月初頭の空気はまだ真夏の熱を残している。ならばこの悪寒は何か。
 考え始めるとどんどん悪い方へと想像が膨らむのはわかりきっているのだ、八束は頭を振って前を見る。大丈夫、人がいないのは偶然、他に何の気配も感じられないのは、突然の大雨だから。それだけ。それだけなのだ。きっと。
 うねうねとカーブを描く道を辿り、木々に囲まれた細い道に入ったとことで、八束の足はぴたりと止まった。黒目がちの瞳に映っていたのは、道の先に倒れている、何者か。
「……大丈夫ですかっ?」
 ほとんど反射的に、傘を投げ捨てて駆けだしていた。しかし、八束の声を聞いても、倒れている人物はうつぶせになったままぴくりとも動かない。その横には豪快に倒れたバイクの姿もある。
 スーツや靴下が汚れるのも構わずアスファルトの上に膝をつく。フルフェイスのヘルメットに隠された顔は見えず、ヘルメットをはじめ、全身に強く擦ったような傷がある。ただ、かろうじて、呼吸はしているとわかる。肩を叩いてもう一度声をかけてみるも、意識は戻らない。ただ、苦しげな呼吸だけが聞こえている。
 その姿に唇を噛みつつも、腕時計を確認。――八時ちょうど。
 携帯電話を取り出して、一一九番を叩く。通話が繋がると同時に、口を開く。
「もしもし、救急です。場所は待盾(まちだて)市鍋蓋(なべぶた)三丁目、林に囲まれた道です。バイクの転倒事故のようで、バイクから投げ出されていた運転手は、呼吸はありますが意識がなく――」
 そこまで一気に説明したところで、八束は口を開いたまま、言葉を失った。
 ついとその人から視線を上げたその時、目に入ったものが、信じられなくて。
 カーブになっている道の先に立ち尽くしていたのは、白い衣を頭の上からまとった人影。
 そして、
 
 ――その人影には、足が、なかった。
 
 
 
 朝から降り始めた雨は、全く止む気配を見せない。
 目には見えない空気の重さに、ただでさえ重たい頭がさらに鈍い痛みを訴える中、南雲彰(なぐも・あきら)は黒い傘を肩にかけ、頼りない足取りで野次馬の間をかき分けていく。
 かき分けると言っても無理に人を押し退ける必要などなく、相手が勝手に避けてくれるので楽なものである。その時に投げかけられる意味ありげな視線も、気にしなければどうということはない。
 野次馬の向こう側には、雨合羽を着た警官たちが人垣を作っていて、南雲もまたそのうちの一人、南雲より一回りくらいは若い警官に引き留められる。
「ちょ、ちょっと、こちらは立ち入り禁止ですよ」
 言葉と視線に怯えを滲ませる警官をぼんやりと見下ろし、コードのついた手帳を示す。
「俺、待盾署の南雲っていうんだけど、蓮見(はすみ)ちゃんいる?」
「……へっ?」
 警察手帳と南雲の顔とを交互に見比べて目を白黒させる警官。すると、その後ろから、よく通る女の声が聞こえてくる。
「あっ、その人は通してあげて。ヤクザみたいな面構えだけど、一応、本物の警察官だから」
 こっちですよ、と手を振っているのは、他の警官と同じく合羽姿の女だった。その周りには、南雲も顔を知っている警官が数人、珍妙な顔をしている――おそらくは、笑いを堪えているのだろう。
 南雲は呆然としたままの若い警官の横をすり抜けて、「蓮見ちゃーん」と女――交通課の蓮見皐(はすみ・さつき)に手を振ってみせた。
「ヤクザなんて酷いな、こんなに人畜無害でフレンドリーなのに」
「でも、そう見えるって自覚はしてますよね、南雲さん」
「うん」
 しれっと頷く南雲には、蓮見も苦笑するしかないようだった。
「あんまり、うちの新人いじめないでくださいね」
「いじめてるつもりはないんだけど」
 新人らしい若い警官に視線を向けると、緊張なのか恐怖なのか何なのか、びくりと震えて助けを求めるように仲間の警官に話しかける。
「あのっ、あの方は?」
「あー、お前は見たことなかったか。あれが待盾署名物、秘策の南雲さん」
「秘策!? 神秘対策係って、実在したんですか!?」
 ひどいな、と内心思いつつもその評価を否定する気にはなれない。同じ署に所属していても、見かけからして自己主張の塊である南雲を知らない警官は未だ一定数存在するし、南雲の所属を知らない――知っていたとしても実在を疑う者はそれ以上に多い。だから、この警官の反応は決して目新しいものでもなく、南雲にとっては「何度も繰り返したやり取り」の一つに過ぎなかった。
「で、バイク事故だって聞いたけど」
 南雲は蓮見越しに事故現場を見やる。とはいっても、バイクの運転手は既に病院に搬送されており、今は数人の警官が激しい雨の中、現場検証を行っている。
「はい。ただ、この雨だから、検証には時間がかかりそうで」
「そりゃ大変。俺を呼んだのは、猫の手でも借りたいってとこ?」
 猫よりも使えないと思うけど、と仏頂面で嘯く南雲に対し、蓮見は「いえいえ」と首を横に振る。
「手伝ってもらいたい、というのは確かに間違いじゃないんですけど。ちょっと、こちらへ来ていただけますか?」
 蓮見に手招きされて、南雲はひょこひょこ後ろをついていく。他の警官たちの好奇の視線は、わかっていながら無視を決め込む。いちいち構っていたら、時間がもったいない。
 蓮見が向かったのは、路肩に停まっていた警察車両であった。「見てください」と言われるがままに、窓越しに後部座席を覗きこむ。窓が濡れているのと、南雲自身の視力の低さからすぐには判別できなかったが、よくよく見てみれば……。
「女の子?」
 そう、一人の少女がそこにいた。
 座席に横たえられているその姿は、よく出来た人形のようだ。
 しっとりと濡れた黒髪は、腰の辺りまで伸びている。瞼を閉じていても、その睫毛の長さが目立つ。綺麗に切りそろえられた前髪の間から覗く眉は太く、意志の強さを感じさせる。今時珍しい、古風な印象の美少女である。
 少女の服装は、少しサイズが大きいのではないかと思われるブラウスに黒のスカート姿。その上で全身ずぶ濡れらしく、ブラウスから下着が透けて見える。とはいえ、子供の下着を見たところで興奮する南雲でもなく、蓮見に視線で説明を求める。
 蓮見は、こほんと軽く咳払いをしてから、口を開いた。
「本日明け方、ここでバイクが横転し、投げ出された運転手が重傷を負いました。今もまだ、意識は戻っていないと聞いています」
「で、この子が、事故と何の関係があるの?」
「わかりません」
「……は?」
「一一九番通報があったのが、午前八時前後。通報は女性の声だったそうです。しかし、その電話は途中で、その女性の悲鳴で途絶えたという報告が入っています。救急からの報告を受けて我々が駆けつけた時には、バイクの運転手と共に、彼女が倒れていたんです」
 通報の主がこの少女であろう、というのが蓮見の見解であった。妥当な線だろう、と南雲も思う。
「この子に怪我はない?」
「はい。単に気絶しているだけのようで、救急隊員からも特に問題なしと言われています。ただ、事故との関係がわからないため、目が覚めるまでは我々で預かることになりまして」
 ふうん、と南雲は改めてしげしげと少女を観察する。窓越しでも、薄い胸が上下していることは、わかる。蓮見の言うとおり、命に別状は無さそうだ。あどけない顔立ちや、めりはりに欠ける体つきから判断するに、中学生くらいだろうか。それにしては妙に大人びた服装をしているけれど、と考えながら蓮見に問う。
「身元とかは、わからないの?」
「わかってますよ。そうでなければ、南雲さんをわざわざ現場に呼んだりしませんって」
「……どういうこと?」
 思わず振り返り、蓮見に問う。この少女に見覚えはない。普段は起きているんだか寝ているんだか怪しい南雲だが、本来記憶力はそう悪い方ではないと自負している。それに、この少女の顔は、かなり特徴的だ。もし一度でも見ていれば、印象に残っていてもおかしくないが……。
 蓮見は軽く肩を竦めて、苦笑交じりに言う。
「所持品から名前はすぐにわかりました。彼女は八束結さんというのですが、綿貫係長から名前くらいは聞いてますよね?」
 やつづか、ゆい。
 あまり聞かない苗字だなあ、という印象は、この場においても有効だった。つまり、南雲はこの少女の名前を知っていた。
 知っては、いたけれど。
「……うちの、新入り?」
「はい」
 八束結巡査。本日付で待盾署に配属される、という話は聞いていた。そして、南雲の直属の「後輩」になるということも。南雲の所属する係に新人が入るということ自体耳を疑ってはいたが、それにしても。
「いやまさか。どう見ても中学生でしょこの子」
「身分証によると一九八三年生まれだそうです。二十二歳ですよ二十二歳」
 いやいやないない、と頭を振る南雲だったが、蓮見がこのような場で下らない冗談を言うタイプでないことは、南雲もよくよくわかっている。
 しばし現実から逃避しようと色々と想像の翼を広げてはみたが、結局、窓越しの眠り姫を眺めて。
「……マジかあ……」
 そう、呟くしかなかったのであった。
「マジです。そんなわけで、南雲さんには、彼女を一旦秘策に連れて帰ってほしいんです」
「蓮見ちゃん、俺が車運転できないの知ってるじゃん」
「お姫様抱っこという手があるじゃないですか」
「やだよ。腕が疲れるし、それ以前に不審者扱いでまた捕まるって」
「……『また』って、捕まったことあるんですか?」
「決定的に捕まったことはないけど、職務質問はのべ十回くらい」
 一瞬、気まずい沈黙が流れた。それでも、すぐに気を取り直したらしい蓮見が、溜息混じりに言う。
「顔、早く覚えてもらえるといいですね」
「ね。で、本当にお姫様抱っこで署まで帰れって?」
「まさか。運転手をつけますのでご心配なく。でも、そこから先はお姫様抱っこをお勧めします」
 どうして、そんなにお姫様抱っこ推しなのか。お姫様抱っこはそこまで乙女心を掻き立てるものなのか。それとも、「南雲が人形のような美少女をお姫様抱っこしている」という愉快な図を期待しているのか。どうも、後者のような気がしてならない。蓮見は実際にその現場を見ることはないというのに、物好きなものである。
 ともあれ、改めて車の中の「お姫様」を確認した南雲は、そっとため息をつき、骨と皮だけの己の腕を撫ぜて呟く。
「……もうちょっと筋トレしとけばよかったな」
「意外と乗り気じゃないですか」
 蓮見の呆れ混じりのツッコミは、聞かなかったことにした。
 
 
 
 ざあ、と鼓膜を震わせる雨の音。
 彩度を失ったモノクロームの世界に、八束はたった一人で立ち尽くしていた。雨以外に聞こえてくる音はなく、人の気配もない。全身に降り注ぐ水滴と生ぬるい空気の温度だけが、肌から身の内に染み渡っていく。
 ――ここは、どこだろう。
 見渡してみても、見知らぬ町並み。「知らない」ことそのものが、八束にとっては何よりも恐ろしい。八束が立っているのは灰色の世界の真ん中、いくつもの道が交わる場所だった。
 どこに行けばいいのか。そもそも、どこに行こうとしていたのか。わからない。何もかも、わからない。
 けれど、立ち止まってはいられない、ということだけははっきりしている。
 胸の奥で、誰かが、絶えず急き立てているのだ。前に進め、立ち止まるな、追いつかれるわけにはいかない、と。
 追いつかれる。何に?
 ふと、振り返る。
 振り返って、しまった。
 ぽっかりと穴の空いた双眸を持つ頭蓋骨が。足のない、真っ白な衣を纏う幽霊が。息がかかるほど近くで、八束を虚ろに見据えていて――。
 
「~~~~っ!!」
 
 詰まっていた息を一気に吐き出して、飛び起きる。
 そこで、初めて、自分が眠っていたのだということに気づいた。朦朧とする頭を振り、目をこすって、何とか視界を確保する。
 目に入る景色は、灰色ではない。人気のない町並みでもない。ただ、背の高い棚が立ち並ぶ倉庫然としたこの部屋が「知らない場所」という点は変わりなかった。
 知らない部屋の、知らないソファの上。自分が置かれた状況が、寝起きのぼんやりとした頭のせいもあって、さっぱりわからない。
「ここ、は……?」
 唇から漏れた、ほとんど無意識の呟きに対し、
「待盾警察署」
 予想外にも明確な返答があって、「ふえっ」と間抜けな声を上げてしまう。すると、ソファの背の向こう側から何かがぬっと現れて、八束を見下ろした。
 何か。そう、それが「何」であるのか、すぐには判別できなかったのだ。
 だから、それが髪一つ生えていない頭を持ち、そのてっぺんから顎の先まで土気色をした、死人じみた顔の男であって。そんな男の、血走った双眸に見据えられているのだ、と気づいた瞬間。
 声もなく、気絶していた。
 
「いやー、流石に少し傷つくな」
「南雲くんも傷つくことがあるんですねえ」
「ありありですよ。グラスハートですよ」
「それ、防弾硝子製ですよね絶対」
 ぽつり、ぽつりと。耳に入る言葉は柔らかい響きを帯びていた。鼻をくすぐるのは、慣れ親しんだ珈琲の香りだ。
 八束は、恐る恐る、堅く閉じていた目を開く。今度こそ、夢ではない場所、八束にとっての「現実」で目覚めることができると信じて。
 が。
「あ、やっと起きた。おはよ、元気?」
 ソファの背に腕をかけ、ひらひらと目の前で手を振っているのは、先ほど視認してしまった、土気色の顔をしたスキンヘッドの男であった。黒縁眼鏡の下の細く凶悪な目つきといい、その目を縁取るやたら濃い隈といい、見れば見るほど妖怪然とした顔つきをしている。
 流石に二回目なので恐怖に意識を飛ばすことはなかったとはいえ、息を呑んで硬直し、ただただ男を凝視することしかできない。すると、その後ろから、もう一人、知らない男が顔を出した。
 こらこら、と男のつるりとした頭を小突いたその男は、細められた目が特徴的な、どこか狐を思わせる顔立ちに穏やかな笑みを湛えていて、緊張に満ち満ちていた八束は拍子抜けしてしまう。
「また脅かしてどうするんですか……。怯えてるじゃないですか」
「何度かやれば慣れるかなと」
「きちんと話をする方が先でしょう? すみません、驚かせてしまって」
 男の言葉の後半は、八束に向けられたものだった。八束ははっと我に返り、ぴんと背筋を伸ばして声を張り上げる。
「い、いいえ! わたしは、大丈夫です」
「だいじょぶには見えなかったけどなあ」
 いやに気の抜けた声で言う妖怪男を横目に、後から現れた男は、恐怖に凝り固まっていた八束をほっとさせる、柔らかく人好きのする笑みを向ける。
「いやはや、転属初日から事故に巻き込まれるとは、何とも災難でしたね、八束くん」
 八束もつられるようにへにゃっと口元を緩め、「いえ」と言い掛けたところで、違和感に気づく。
「あれっ、どうして、わたしの名前」
「ああ、申し遅れました」
 男は目を糸のように細め、優雅に一礼する。
「僕は待盾警察署刑事課神秘対策係係長の、綿貫栄太郎(わたぬき・えいたろう)と申します。ようこそ、神秘対策係へ」
「え」
 ――神秘対策係。
 警察の一部署らしからぬ奇妙な名の係は、しかし、八束結が本日付で配属となる係であって。
 ソファの上で足を投げ出したまま、これからの上司と相対していたのか。慌てて立ち上がろうとして、体にかかっていた大判のタオルケットが胸元から落ちかけて。
 そこで、初めて、上半身に何も纏っていないことに気づいた。
 いや、上半身だけではない。下に穿いていたはずのスカートも失われていて、凹凸のないぺったりとした裸体に下着一枚という、とんでもない格好であった。
「あ、ええっ!? ど、どうして」
 慌ててタオルケットで体を隠しながら、何とか記憶を手繰り直す。最低でも、八束の記憶が正しければ――八束に限って、記憶が「正しくない」はずはないのだが――気を失う直前までは、きちんと前部署からの仕事着であるスーツに身を包んでいたはずではないか。
 すると、一応目を逸らしてくれていたらしい禿頭の男が、ぼそっと言った。
「服はびしょ濡れだったから、交通課の子に脱がせてもらって、こっちで預かってるよ。風邪引いちゃうといけないから」
「早く言いましょうよ」
「ごめんね?」
 男は、ちょいと首を傾げてみせる。ただ、のんびりとした言葉に対して表情は依然として険しく、虚空を睨む視線は厳しい。もしかして、迷惑がられているのだろうか、と不安になりながらも、タオルケットを胸元に抱いたまま、頭だけを下げる。
「こんな格好ですみません。本日付で待盾署刑事課神秘対策係に配属になりました、八束結巡査です。これから、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします、綿貫係長。と……」
「こっちは、主任の南雲彰くんです。うちの、今のところ唯一の係員ですね」
「よろしく」
 そう言って手を挙げる南雲は、それでも眉間の皺を崩さず、じっとりとした目つきで八束を見下ろす。
 ――これは、もしかしなくとも、怒らせてしまったのではないだろうか。
 さあっ、と頭の上から血の気が引く。
 ここまで来れば、流石に八束も目の前の男が生きた人間であり、自分の直属の「先輩」であるという程度までは理解が及んでいる。
 いくら寝ぼけていたからといって、その先輩を夢から飛び出してきた妖怪と誤認して勝手に怯え、それどころか気絶までしたのだ。それが、とびきりの失礼に値することくらい、八束にだってわかる。
 気づいてしまったからには、黙っていることなんて出来なくて。八束は勢いよく、南雲に向かって頭を下げた。
「南雲さん、先ほどはすみませんでした!」
「え、何が?」
 きょとん、という効果音が聞こえてくるかのごとき動きで、南雲が再び首を傾げる。仏頂面だけはそのままに。
 怒られるとばかり思っていただけに、八束も言葉を失ってしまう。
 しばし、奇妙な沈黙が流れ、やがて、南雲がぽんと手を打った。
「もしかして、怒ってるように見えた?」
「はいっ」
 正直に頷くと、南雲は無造作に手を伸ばし、八束の頭を軽く叩いた。その手は大きく、ひんやりとしてこそいたが、それでも生きた人間の感触をしていた。当然ではあるが。
「悪いね、俺、いつもこういう顔なんだ。色々言われ慣れてるし、別に気にしてないよ」
「そう、なんですか?」
「そうなの。だから、まあ、慣れて」
 慣れて、と言われても。
 何ともいえずに南雲を見上げるものの、南雲は暗い顔で八束の頭をぐりぐり撫でるばかりで、やはり、何を考えているかはさっぱりわからない。声のトーンや仕草から判断するに、怒っていない、というのは嘘ではなさそうだが。
 そんな二人を苦笑混じりに眺めていた綿貫は、南雲が手を離したところで、声をかけてきた。
「さて、八束くんも、落ち着きましたか?」
「は、はい、何とか」
 多少の混乱は残っているものの、撫で回されているうちに当初の恐慌は収まった、と思う。小さく頷くと、綿貫はほっと息をついてみせた。
「しかし、無事でよかったです。事故現場に倒れていたと聞いた時には肝を冷やしましたよ」
「事故現場に、倒れていた……?」
「ええ。覚えていませんか?」
「いえ」
 ――そう、覚えていない、わけではない。
 確かに、気を失う前の最後の記憶は、雨の中、横倒しになっていたバイクと、倒れ伏す運転手と見られる男の姿だった。それに、もう一つ、記憶にちらつく白い影。
 ぞくり、と。全身に走る怖気に、タオルケットを強く抱きしめる。
 違う、思い出してはいけない。あれはただの見間違いであって、何も恐ろしいものではない。
 そう思いたいのに、たぐり寄せた記憶に焼き付いた何者かが、じっと、こちらをのぞき込んでいる。眼球のない、吸い込まれそうな闇色の二つの穴が、八束を捕らえて離そうとしない――。
「積もる話は、着替えてもらった後の方がいいんじゃないすか? そのまんまじゃ、お互い話しづらいでしょう」
 突然、投げ込まれる、いやに明るい南雲の声。その声に導かれ、記憶の奥深くに落ちかかっていた意識が浮上し、白い影の幻影も目の前から掻き消える。
 顔を上げると、何かが顔に覆い被さってきた。慌てて顔にかかったものを剥がすと、目の前に立っていた南雲が、八束の手元を差す。
「それ、交通課の子から借りた服。サイズ大きいかもだけど、濡れてるのよりは幾分マシかと思って」
 手にしたものをよくよく見れば、それは柔らかな素材のブラウスに、紺のスカートだった。きっちりとアイロンがかけられた服は、ほのかな温もりを八束の指先に伝えてくれる。その温もりが、今は、何よりもありがたかった。
「あ、ありがとうございますっ」
 南雲はただでさえ細い目をさらに細め、「ん」とだけ言って、のっそりと八束に背を向ける。綿貫も八束が服を受け取ったのを見届けると、軽く手を振る。
「それでは、我々は外で待っていますね。着替え終わったら声をかけてください」
「はい、わかりました!」
 背筋を伸ばして返事をすると、綿貫は満足げに微笑み、南雲を連れて部屋の外に出て行った。
 きいぃ、と蝶番の軋む音、次いで扉の閉まる音が響き、後には静寂が残る。
 ただ一人、残された八束は、改めて部屋を見渡す。圧迫感のある背の高い棚に収められているのは、ほとんどが書籍と書類のようだった。硝子張りの戸越しに確認できる本のタイトルが、『UFOの謎』だとか『妖怪大全』だとか、およそ警察署とは思えないラインナップであるのが、気にかかるところではあったが。
 そして、八束が寝かされていたソファのすぐ後ろには、作業用と思しきデスクが三つ置かれている。そのうち、手前の一つ、パソコンのディスプレイが置かれただけの机が、今日から八束の席となるのだろう。それは言われるまでもなくわかる。
 しかし、正面に置かれたもう一つの机の上は、一瞬、ディスプレイの姿すら確認することができなかった。そこに積み上がっているものが何なのか、八束が理解するまでには数秒を要した。
「……くま、さん?」
 そう、八束の見間違いでなければ、それらは、間違いなく、無数のテディベアであった。
 机の上を占拠している熊――それに混ざって兎や犬、猫にペンギンの姿もあるが――は、色とりどり、模様も様々で、一つとして同じものはないように見えた。
 ――もしかして、手作りなのだろうか。
 仮にそうだとしても、誰がこんなに大量のテディベアをはじめとしたぬいぐるみを作り、机の上に積み重ねているのだろうか。そもそも、これほどまでのぬいぐるみを、一体何に使うというのだろう。
 しばし、そのまま硬直していた八束だったが、ふと、自分が上半身裸のままであったことを思いだし、顔を赤くする。実際に誰に見られているというわけでもないが、無数のテディベアの視線に晒されていると思うと、何となく気恥ずかしくなってしまう。
 とりあえず、さっさと着替えてしまうべきだ。外で待っている二人のためにも。
 そう思いながらも、ついつい、そちらに気を取られないわけにはいかない。ただ、その分、他のこと――例えば、先ほど目にした白い影のことを考えずに済んだのは、ありがたかった。
 手早く着替えを終え、「終わりました」と声をかけると、本当に扉のすぐ側で待っていたらしい南雲が、ひょいと顔を出す。
「だいじょぶそう?」
「はいっ」
「服は……、やっぱりちょっと大きいか」
 南雲の言う通り、借りた服は決してぴったりとは言えなかった。ブラウスの袖は長く、襟もぶかぶかで、見事なまでに「服に着られている」形だった。
 確かに、八束は警察官としては一際小柄な方なので、当然といえば当然なのだが、その割に、スカートの腰周りがきついのは、気のせいだと思いたい。
 反面、いやにすうすうする胸周りを気にしながらも、南雲を見上げてみる。先ほどまでは座っていたため実感に乏しかったが、この男は、八束とは正反対にひょろりと背が高く、酷い猫背であるにも拘らず頭一つ分以上視点が上にある。目を合わせるのも、なかなか大変だ。
「着替えを用意していただけただけでありがたいです。後で、貸してくださった方にもお礼を言わせてください」
「多分、嫌でもすぐ会えると思うよ」
「ふえっ?」
「後でわかる。まあ、綿貫さんが戻ってくるまでは、のんびりしてればいいよ」
「あれ、綿貫係長は?」
「何か他の部署の人に呼ばれて行っちゃった。すぐに戻るとは思うけど」
 ふんわりとした答えを返しながら、南雲は八束の横を通って、つかつかと机の方に向かう。ぬいぐるみが山となっている方の机に。
 やはり、そうなのか。八束は戦慄し、南雲とその机を交互に見つめる。
 やはり――そこは、南雲の席なのか。
「あの、南雲さん」
「何? そうだ、珈琲飲むけど、一緒にどう? ミルクと砂糖は入れるタイプ?」
「あっ、ありがとうございます。ミルクと砂糖多めでお願いします」
「はいはい」
 南雲はどこか頼りない足取りで、机の後ろに置かれた、やけに本格的なコーヒーメーカーの前に立つ。珈琲のよい香りは、どうやらここから漂っていたものらしい。
「……って、そうじゃなくて!」
 南雲の流れるような誘導につい乗せられてしまったけれど、聞きたかったのはそういうことではない。不思議そうにつるりとした頭を傾げる南雲に向き直り、机の上のぬいぐるみを指す。
「これ、何ですか?」
「ぬいぐるみ」
「それはわかりますけど、何のために置かれているものですか?」
「かわいい」
 即答だった。
 それで、冗談めかした表情でも浮かべているならともかく、言い放った南雲の横顔は仏頂面のままであったから、本気なのかふざけているのか、八束にはさっぱりわからない。
「……南雲さんは、かわいいものがお好きなのですか?」
「かわいいは正義だろ」
 どうにも表情と言葉が噛み合わないまま、南雲は八束に背を向け、慣れた手つきで珈琲を淹れ始める。そして、呆然と佇む八束を振り向くこともなく、ただ、のんびりとした声だけで言う。
「その前が、八束の席だから。突っ立ってないで、座りなよ」
「は、はいっ」
 慌てる理由もないのだが、意味もなくわたわたとしながら、席につく。そして、南雲の土気色をした後頭部を何とはなしに眺めてしまう。
 一体、この人は何を考えているのだろう。最初は恐ろしそうな人だと思ったが、話してみるとそうでもなさそうで、なのに何を喋っていても不機嫌そうで、それでいてかわいいものが好みらしくて。八束には何が何だかわからない。
 そんな八束の混乱に構う様子もなく、南雲は手にしたマグカップの一つを八束の前に置く。ブラウンのマグカップには、かわいらしい猫の顔が描かれていた。
「どうぞ」
「ありがとうございますっ」
 八束は背筋をぴんと伸ばし、南雲に向かって勢いよく頭を下げる。南雲はこめかみの辺りを掻きながら、ただでさえ細い目を更に細める。
「お堅いねえ。もうちょっと肩の力抜いていいんだよ」
 そう言われても。八束は少しだけ口をへの字にする。
 多少緊張しているのは事実だが、肩の力を抜いていいと言われても、どうしていいかわからない。何しろ、これが八束にとっての通常運転だったから。
 自分のカップを手に、ぬいぐるみの群れの向こう側に座った南雲は、どうにもぼんやりとした声で言う。
「えーと、改めて自己紹介しとくと、俺は南雲彰っていいます。巡査部長で、刑事課神秘対策係、名ばかりの主任。何しろ今までずっと俺と綿貫さんしかいなかったから。まあ、一応先輩で、教育係ってことになるのかなあ」
 そんなガラじゃないんだけどねえ、と言いながら、南雲は手元のピンク色のテディベアを弄っている。そんな南雲に向かって、八束はぺこりと頭を下げる。
「八束結です。県警本部の刑事部に所属していました」
「へえ、本部の刑事だったんだ。珍しいな、そんな若いのに」
 確かに、本部にいた頃は色々と好奇の目で見られることも多かったと思いだす。
 その頃の前上司には色々と世話になったが、結局、何故八束が刑事として上司に引き抜かれたのかは、わからずじまいだった。
 それに、本部を追い出されるきっかけとなった事件を思い出すと、自然と眉間に力が入ってしまう。忘れたくても忘れられないし、忘れたいと思っているわけでもない。そう、決して忘れてはいけないことだ。それでも、思い出すのは少しだけ、辛い。
 そんなことを思っていると、南雲が仏頂面のままテディベアの腕を指でつまみながら言う。
「ま、うちは本部に比べたらめちゃくちゃ暇だから、その辺は安心していいよ」
「は、はあ」
 それは、果たして安心していい要素なのだろうか。
 どうにも判断しかねている八束をよそに、ピンクのテディベアがこくんと首を傾げる。
「で、えーと……、八束って呼んでいいかな」
「はいっ」
「八束は、どうしてあんな雨ん中で倒れてたの?」
 八束は、はっとしてテディベアから南雲の顔に視線を戻す。南雲の顔は依然として険しく、黒縁眼鏡の下からこちらを鋭く睨めつけていて、思わず身構えてしまう。すると、南雲はすぐにテディベアで顔を隠すようにして、ぬいぐるみの手足をぴこぴこと動かしてみせる。
「やだなー、そんな怖い顔しないでよ」
 大の大人が――しかも、どう見たって恐ろしげな顔をしたスキンヘッドの男が――眼前で熊のぬいぐるみをかわいらしく操ってみせる、というやけにシュールでコミカルな光景に、最初は呆気に取られ、次の瞬間にはつい、堪え切れなくて小さく吹き出していた。
 しまった、笑ってはいけなかっただろうか。慌てて南雲の顔を見ると、テディベアの後ろで相変わらず不機嫌そうな面をしてはいたが、それでも口元は微かに緩んだように、見えた。
「そうそう、笑った方がいいよ。別に今は仕事で話聞いてるわけでもないし、気楽に行こうよ」
「は、はいっ、気楽にやります!」
「うーん、気楽とはほど遠い回答だなー」
 南雲はテディベアの首をくにくに動かしながら、小さく唸る。
 ……もしかして、わたしが緊張していると思って、気を遣ってくれたのだろうか。
 八束は改めて南雲を見るが、南雲の表情はさっぱり変わっておらず、結局そこから何らかの感情を読み取ることはできなかった。
 ともあれ、まずは南雲の質問に答えるのが先だろう。
 自分は何故、あの場に倒れていたのか――。一つずつ、記憶をひ手繰ってゆく必要がある。
「あの場で事故に遭った、ってわけじゃないよな」
「はい。わたしがあの場所を通りがかった時、既にバイクから投げ出されるように倒れていた方がいました。かろうじて息があることを確認して、救急を呼んだことまでは覚えています。それが、わたしの時計で午前八時ちょうどでした」
「随分冷静だな」
「わたしが冷静さを欠いて、救えるはずの命を救えないということだけは、避けなければなりませんでしたから」
 八束はぴんと背筋を伸ばして言う。何故か、南雲はテディベアの後ろで眩しそうに目を細めて、何とも形容しがたい表情を浮かべていたけれど。
 そこで、目が覚めてからずっと気になっていたことを、問うてみる。
「あの方は、無事だったのでしょうか。南雲さんは何か聞いていますか?」
「救急が駆けつけた時点では、相当の重傷で、頭を打ったのか意識もない状態だった、とは聞いてる」
 その後のことは管轄外だから知らないな、と南雲は軽く肩を竦める。とはいえ、死んだとは聞いていないし、詳細を知りたければ後で聞くことはできるだろう、と付け加えて。
 八束は内心でほっと胸を撫で下ろす。自分が気絶している間に容態を悪化させてしまった、なんてことになれば完全に八束の責任だ。二度と誤ってはならない、と思った矢先の出来事だっただけに、正直気が気ではなかったのだ。
 南雲は、テディベアを顔の前から降ろして、大きく万歳させながら言う。
「しかし想像が外れたな。倒れて大怪我を負ってる奴を、まじまじ見ちゃったショックで気絶したとか、そういう話かと思ってたんだけど」
「前部署から、そういう方と接することは多かったですから。痛ましいとは思いますが、それでわたしが判断を誤ることはあってはならないと思っています」
「……わー、めっちゃ真面目ぇー……」
 南雲の薄い唇から、率直な感想がもれる。「真面目」に「馬鹿」とか「クソ」とかつかなかっただけ、前部署の上司よりは控えめな評価だな、と八束は真正面から、それこそ言葉通りに「真面目な」顔でその言葉を受け止める。
 そんな八束の反応を、南雲がどう受け止めたのかはわからないが、ピンクのテディベアを一旦机の上に置いて、眉間の皺を深めて問いかけてくる。
「でも、それなら『どうして』気絶してたん?」
 どうして。そう、それは八束にとっても重要な問題だ。
 けれど、思い出そうとすると――。
 ぶわっ、と。全身に鳥肌が立ち、体の底が冷えるような感覚。それどころか、体の内側を冷たい指が這うような気色悪さすらも覚えて、両腕で己の体を抱く。雨で冷えただけとは思えない、嫌な感触に震えずにはいられない。
 八束の異変に気づいたのか、南雲が少しだけ目を見開いて――今までずっと細めていたから八束も気づかなかったが、意外と大きく、いやに淡い色の瞳をしている――不安げな声を出す。
「……だいじょぶ?」
「だ、大丈夫、ですっ。ただ、その……」
「うん」
 前に座っている南雲は、八束を急かすこともなく、己のマグカップを引き寄せて、珈琲をすする。それを見て、八束もつられるようにマグカップを手にとって、ちまりと舐める。牛乳と砂糖がたっぷり入った温かな珈琲は、甘さとほろ苦さがバランスよく絡み合っていた。口の中に広がる香りからするに、相当いい珈琲なのだろう。
 後味を感じながら、一息。その一息で、ほんの少しだけ緊張がほぐれた。その間隙を縫って、一気に言葉を吐き出す。
 
「ゆ、幽霊を、見たんですっ!」
 
 南雲は、ぽかん、という擬音がよく似合う顔をして。
「……は?」
 そんな声が、唇から零れ落ちる。
 八束は慌てて、カップを置いて両手を振る。
「し、信じられませんよね! ありえませんもんね、幽霊なんて! ごめんなさいっ、わたし、気が弱ってたのか、疲れてたのか……! ああああ、でもっ、そんな、ありもしないものにびっくりして気絶するなんて、ほんと情けないですよね……!」
 もはや、自分でも何を言っているのかわからないけれど、とにかく、幽霊なんて非現実的なものに怯えたあげく、気絶までしていたというのは、情けないにもほどがある。南雲もきっと、失望しただろう――と、思ったのだが。
 前に翳した手越しに南雲を見てみると、南雲は相変わらずの仏頂面ながら、どこか思案げにこめかみを指で叩き、ぼんやりとした口調で言った。
「いやいや、んな頭っから否定しないで、まずは、見たもんをそのまま教えてくれないかな。もしかすると、早速、俺らが動くべき案件かもしれないから」
「え?」
 今度は八束が疑問符を飛ばす番だった。
 俺らが動くべき案件。
 その言葉の意味が、すぐには、理解できなかったのだ。南雲もそれに気づいたのか、テディベアの頭に顎を乗せて言う。
「わかんない? ここの名前は『神秘対策係』」
 ――神秘。人間の持つ、通常の認識や理論を超越していること。
 ――対策。事件の状況に対応するための方法、もしくは手段。
 八束の背筋に、冷たい汗が伝う。
 最初にこの部署の名を聞かされた瞬間から、何とはなしに嫌な予感はしていたのだ。ただ、詳細については、結局知ることができないまま、ここまで来てしまった。
 来てしまった、けれど。
「つまり、幽霊や妖怪、超能力、神に仏にえとせとらえとせとら――所謂『オカルト』が関わる事件全般を扱う係なんだ」
 その、決定的な言葉を聞いてしまった瞬間。
 ぎりぎりのところで張り詰めていた八束の意識が、ふつりと、切れた。

本編へつづく

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