蒼甲機精エスヒュドール サンプル - コミティア部活動|ヒロイン☆ふぇすた

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HEROINS 参加ヒロイン&対象作品紹介

(亜細亜姉妹「蒼甲機精エスヒュドール」より)

加古侑実
加古侑実
セリフ

お試し読み

#04(より抜粋)

 こっそり出ていった時と違って、戻ったハンガーは当然というか、明るかった。
 俺――ヒュドールが先に入り、デンドロンが続く。
 あっちの方が先に固定位置に着いて、後部ハッチが開くのを俺はコクピットから見ながら自機が運ばれる振動に身を委ねていた。
 背後で、異星人の女がきょろきょろとハンガー内を見回している気配があった。
 デンドロンのコクピット――たぶん、ヒュドールと同じような場所にあるのだろう――から出てきたのは、俺と同い年くらいに見える少女だった。
 淡い色のクセ毛が跳ねた髪は今の俺より短い。
 ゆったりとしたブラウスと長いスカートで、あの重厚感のあるロボットに乗って戦っていたとは思えない。
 がこん、とシートが揺れた。
 ハッチが開く。
「侑実(ゆうみ)ちゃん」
 振り返ると、真子(まこ)が立っていた。
「あー……」
 俺を見下ろすメガネの奥は冷ややかだった。今更ながら、無断でしかも隔壁をこじ開けてここを飛び出した昨夜のことを思い出す。
「とりあえずその子をこっちに。で、侑実ちゃんも降りて」
 言われるままに俺は、まだ俺の服の腰をぎゅっと握っていた彼女の手を解いて、真子のほうへ押しやる。
 それからヒュドールの起動キーを抜いて、俺自身も自機を出た。
 横目に、ケイが歩いてきているのが見える。
 異星人の女を毛布で優しく抱えた真子は、見上げる俺の視線をまっすぐ捕らえていた。
「サルマキスと話して、吹っ切れた?」
 その真子の口から出たのは、小言ではなかった。
「あ、ああ――何となく」
 真子が「そう」と頷いたところで、ケイが口を挟んできた。
「ゆうみさんね?」
 一瞬、真子の唇が綻ぶ。
「二人とも紹介しなきゃね。
 侑実ちゃん、この子は日名森慧(ひなもり けい)。『精霊の鎧(ニュンパイ・パノプリア)』二号機『デンドロン』のパイロット」
 そこで一旦言葉を切り、俺に訊く。
「どっちがいい?」
 その意味を理解するのに数秒かかり、気付いた時には真子はもう彼女――慧に話しはじめていた。
「慧ちゃん、こっちは加古侑実。同い年――」
「いや、侑叶だ」
 遮って言うと、
「ん?」
 と、慧が体を傾けて俺を覗き込んできた。彼女の方が少し俺より背が高い。
 明るい青みの差した瞳も、すっとした鼻筋も、白い肌も日本人離れしている。
 それなのにピンクがかった薄めの唇から出てくるのは、ゆったり気味のナチュラルな日本語だった。
「侑叶――侑実? ずいぶん女の子っぽいけど、男の子なの?」
 息がかかりそうなほど近くてドキドキする。
「半々、かな。
 侑実ちゃんは、どっちがいい?」
 再度訊かれる。
 俺は深夜のサルマキスとの話と、さっきの真子とのやりとりを思い出していた。
 ひとつ溜め息をこぼす。
「――呼びやすい方でいい」
 それより、とどうしても気になって真子に尋ねる。
「俺は――何の罰を受ければいい?」
「そんなに何かされたいの? ここには軍法会議も懲罰房もないよ」
 それに、と言う真子は微笑んでいた。
「メインパイロットの出奔くらい定番――想定内よ。今回はこの子の保護というお手柄もあるし、サルマキスと話して整理できたならむしろいいし、君が夜中にひとりツーリングしてたことも調査済み。
 以上、相殺してお咎めなし」
 俺の目から心境を読み取ったように続ける。
「ま、どうしても何かしないと気が済まない、ってなら――そうね。
 二つ、いいかな」
「何でもいい」
 真子は目を丸くして、メガネに触れた。
 厚いレンズの端が光る。
「ひとつは、これからは『侑実』になること。
 もうひとつは――」
 と、抱きとめていた異星人の女を俺に渡す。
「この子をお風呂に入れて綺麗にしてあげて、それから二人で梨香(りか)の所に行って。
 慧ちゃんは先にメディカルチェックね」
 言った以上承諾したがまた、真子の言葉の意味を理解するのにしばらくかかってしまう。その間に慧が、
「了解。じゃぁ、これからよろしくね、侑実」
 俺の手を取って勝手に軽く握手してから去って行った。
 一つめは半分以上もう『侑実』だと思った。真子にも、知り合ったばかりの慧にもそう呼ばれてるし、この分だと梨香もきっと同じだろう。
 二つめは――
「って、ふ――風呂!? この子、女じゃねぇのか」
「侑実ちゃんも、半分は女の子でしょ」
 !? 一つめ、そういう意味か……俺が、この俺が女に――って!?
 衝撃すぎて一歩退いた俺に、真子が追い打ちのように言う。
「何でもいい、って言ったよね」
「な、なんでだよ――こんな体でも、俺は男だ」
 抵抗を試みる。
「今の侑実ちゃんを見て、どれくらいが『ああ、コイツ男だ』って思うかなぁ。
 それならいっそ――ねぇ」
 自分の胸を見る。顔はもともとそんなにゴツくない上に、ヒゲとか体毛も薄い。そのせいもあってナメられたし、だからこそ鍛えてた――その筋肉がすっかり落ち、髪もこんなに伸びていたら――とは思うが、やっぱりそこは譲りたくない。
 ない、のだが……
 軽く受けたことを後悔しても遅い。
 少し落とした俺の肩を、真子がぽんぽんと叩く。
「同時通訳機を一台侑実ちゃんにあげるから、この子とちゃんとコミュニケーション取って。できれば何かの情報を得られればなおいいわ。
 あと、お湯や石鹸は大丈夫だから安心して使っていいよ」
 だんだんと、拒む余地がなくなってきた。
 異星人の女が不安そうに俺を見上げていた。
 ああ、そうか。
「キミが問題で揉めてるんじゃないよ」
 笑顔を見せて、毛布の下にある彼女の手を取る。
「真子がああ言ってるし、ともかく風呂行くか」
「ふ――ろ?」
 彼女が小首を傾げる。
「侑実ちゃん」
 真子が白衣のポケットから大きめのマグカップぐらいの円筒状のものを出して俺に差し出す。
「その子のためにも、女湯に行くことを私が許可するわ。
 あとこれ。耐水性も十分あるから、風呂場でも問題なく使えるはずよ」
 どうやらこれが通訳機らしい。
 受け取って電源を入れると、緑のLEDが灯った。上三分の一ほどがスピーカーらしい網目になっている。
「これでいいのか?」
 真子が頷く。
 さっそくそれを俺と彼女の間にして、話してみる。
「俺は加古侑叶って名前だけど、キミは?」
『――ム・ディ・イ・カコ ユウト。セ・メック?』
 ほとんど間を置かずに、円筒のスピーカーから聞きとりやすい女の声が出た。
 俺も彼女もびっくりしてその機械を見て、目が合った。
「あら、侑実、でしょ」
 真子の横槍も通訳する。
 彼女は不思議そうに俺と真子を見比べ、
「ユウト……ユウミ?」
 と、慧と同じような反応で俺を見上げる。
 ほとんど諦めの感情で、それでも俺は苦笑して見せる。
「キミの呼びやすいほうでいいよ。
 それで、キミはなんて呼べばいい?」
 ニュアンスまで翻訳するのか、彼女はほんのわずかに口元を綻ばせた。
「マク・アステ……」
 訳されない、ということはこれが名前か。
「ファミリーネームが先だと聞いてるけど、アステちゃん、でいいのかな?」
 俺より先に真子が言って、彼女が頷いた。
「侑実ちゃんの分と一緒にアステちゃんの着替えも用意しておくから、行っておいで」
「スカートははかねえぞ」
 くすくすと笑う真子に、ふと思い出して気になったことを尋ねる。
「そういや慧――さんの日名森、って」
「気付いた?
 彼女、ここの初代所長・日名森樫嗣教授の娘さんよ」
「そうなんだ。で、その教授は?」
「もうお亡くなりになってるわ」
 真子が珍しく、目を伏せた。
 何となくそれ以上聞くことがためらわれ、俺はアステを促した。
「風呂――行くか」
 ハンガーには、機械音と整備班の声がこだましはじめていた。

 真子に言われたとおり、女湯へ行く。
 幸い誰もいなかった――というか、そもそも俺の周囲に女の割合が高いだけで、この研究所の男女比率は圧倒的に男が多い。
 二人だけの脱衣所で服を脱ぎながらアステを見ると、彼女は周囲を見回して、ボクサー一枚になっていた俺を見て、戸惑った表情を浮かべていた。
「ここは――なに?」
 彼女の言葉を、機械がすぐに通訳する。
「風呂――ってわからないのか。体を洗うところ、と言ったら理解できる?」
 アステは緩く頷いて、着ているぼろぼろのワンピースを見下ろして、また俺を見上げた。
「おいおい、せめて服くらい自分で脱いでくれよ……」
「ん」
 俺が手を伸ばそうとするのを制して、アステはその服を脱いだ。
 目を逸らすより前に彼女は下着も取る――淡紫の肌が素肌なら、これが全裸ということなのだろう。
「これでいいの?」
 声をかけられて我に返る。
 起伏の薄い体だった。今の俺より胸も小さい。それでもくびれた腰から下半身へのラインは柔らかな、女の線を描いている。
 つい全身に見とれていた。
「あっ、ああ――」
 俺は急いで下着を脱ぎ――大きくなりかけていた股間をタオルで隠し、もう片方の手で彼女の手を取った。
 浴場に二人で入る。
 外とは違う熱気と、大きな浴槽から上がる湯気にアステの腰が退けたのが繋いだ手から伝わってくる。
「大丈夫だから――ていうか、キミらは体どうやって洗ってるんだ?」
 同時通訳機はタオルと一緒に持っていたから、下から翻訳した音声が少し反響して流れる。
「――故郷では、簡単な水浴みをしてた。調査団の船では、たぶん洗浄ユニット」
「たぶん?」
 やや強引に彼女の手を引いて、浴槽の側へ連れてゆく。
 俺の疑問には答えず、アステはなみなみと張られた湯を眺めていた。そこにおずおずと手を伸ばして湯に触れ、びくっと引っ込める。
「やっぱり先に、髪と体洗おうか」
 と、彼女をシャワーブースに連れてゆく。
「使い方は――解らないよな」
 アステを座らせて、自分はすぐ隣に座って、その間に翻訳機を置いてから、シャワーを出して見せる。
 その水流にもビビった様子を見せるが、俺が自分の身体に浴びせるのを見て大丈夫と判断したのだろう、それでもぎゅっと目を閉じてシャワーの中に頭から身を投じた。
 髪にも体にも全身に被っていた埃や汚れがどろっと落とされて、排水溝を詰まらせかねない勢いで流れてゆく。
 ほっそりとした身体がいっそう露わに、しっとりとした艶をまとう。
 灰色だった髪は桜色のようなほんのりとしたピンクになっていた。
 はち切れそうに張る股間をタオルで抑えつけ、俺は緊張で掠れた調子で、彼女の前にあるボトルを示す。
「そ、そっちのシャンプーで髪を――」
 手で顔の水気を払ったアステが正面の鏡に映る自分の姿を見て、隣の俺に向いて首を傾げる。
 体ごと振り返ったために、彼女の胸が視界に飛び込む。
「シャンプー?」
 俺は慌てて目を逸らして並べられたボトルの一つを取って、ぼすぼすと大量のシャンプーを自分の手に出す。
 男風呂のシャンプーにはない、甘い香りがふわりと漂う。
「つっ、次からは自分で、や、やってくれ、よ……」
 それを彼女の頭に乗せる。
「目――と、閉じてて」
「ん」
 鏡の中のアステが目を閉じたのを確かめてから泡立てる。
 相当な量の泡ができる。彼女の長い髪の全体を包んでもまだ多く、結局俺は自分の髪をその余った泡でさっと洗う。
 それを流し、水分を絞って、また大量のコンディショナーを出してアステと俺の髪に揉み込むようにして伸ばしてゆく。
 花のような匂いがさらに広がる。
 男風呂のより段違いに肌触りが良く柔らかいスポンジにボディソープをやっぱり多めに出して泡の塊にして、アステの手に乗せる。
「か、か、体はじ、自分でやって……」
 股間が限界を訴えるようにじんじんと痺れていた。
「おっ、俺も、じ、自分の体、洗うから、なっ」
 自分のシャワーブースにあるスポンジを使う。
 視線を感じて横を見ると、泡立ったスポンジを何もせずに持ったままのアステがじっと俺を見ていた。
「ん、な、っ!? な、なに?」
「どうしたらいいか判らないから、ユーミのやり方を見てる」
 ユーミって……俺は気にしないふりで自分の体に爽やかな芳香の泡を塗りたくる。
 その呼ばれかたで、股間の張りがわずかに弱まる。
 あとで処理するから今は収まれ、と下半身に命じながらアステを見ると、ようやく持っていたスポンジを自分の体に当てはじめた。
 俺が全身を流してから見るとまだ、上半身の前側にしか泡がついていない。
「せ、背中も――」
 同じように、と言おうとすると、彼女がこっちを見て首を振った。
「無理だから、いい」
「無理?」
 アステは腕を少し後ろに回そうとして、顔をしかめる。
「できないの――昔の怪我で」
 その時気付いた。
 長い髪と汚れに隠れ、シャワーの水流にごまかされ、泡に覆われた彼女の体の至る所に痕があった。
 右の脇から腰にかけてはざっくりと切ったらしい引きつった傷痕が大きい。背中は火傷だろうか、薄紫の肌にいびつな濃淡があった。
 両足にも、腕にも、腹部にも、それこそ全身のあちこちにある細かい傷や痣は数え切れない。
 息を呑む。
「――酷いでしょう」
 深く自嘲のこもった声も、冷静な音声に翻訳されてしまう。
「いや」
 俺は、彼女の手からスポンジを取った。
「痛くないなら、俺が洗うよ――いいか?」
 アステは驚いたように、彼女の真後ろに移動した俺に顔を向ける。
「エウ・ニニ・ネイオーン――」
「そんなことはない」
 ニュアンスを察して、俺は同時通訳を待たずに遮った。
 二人の間から『いいけど、こんな醜い――』と『ニ・ス・ディ』とが連続して発せられ、彼女がわずかに眉間に皺を寄せた。
「これは――キミが生きてきた軌跡だ」
 どんな原因で負った怪我だとしても。
 機械はちゃんと訳してくれてるだろうか。
 アステが目を丸くしていた。
「俺はそう思うよ――髪、前で持ってて」
 俺は力を入れずに、彼女の肩から背中をスポンジで撫でてゆく。
 足の指先からゆっくりと膝まで洗い、スポンジを返す。
「そこから先は、自分でやってくれ。
 それと、俺も――」
 と、股間を抑え込んで、脇腹をアステに見せる。
 昔の喧嘩で切られた痕がそこにはある。
「相手が刃物持ってやがってさ。十針くらい縫った。
 こっちも」
 さらに、左の肘に残る線も示す。
「ボルトが入ってたんだ」
 アステは右手に乗せられたスポンジを動かさず、左手で俺の手術跡をそっと撫でた。
 どきっと心臓が跳ね上がる感覚が全身を揺さぶり、股間がまた反応しようとする。
「だっ、だ、だから――」
 なんとか、わずかに残る冷静さを絞り出す。
「醜くない」
 さっきの翻訳を否定する。
 アステがゆるゆると、太腿から股を洗うのを待ってから、彼女の全身を流す。
 ばさばさだった髪は滑らかにまとまって流れ、汚れきっていた体もすっきりと彼女本来の肌を見せる。
 そうして、あらためて見ると――
「綺麗だよな、肌も、髪も」
 ぼそっと言うと、アステは過敏なくらいの速度で俺を見上げた。
「嘘っ――」
「嘘じゃない」
 流し残しがないよう入念に、少し圧を弱めたシャワーを彼女の全身にくまなく浴びせる。
 前屈みに腰を上げて、なおかつタオルと翻訳機で前を隠して、彼女を促す。
「湯――入ろう」
 彼女の前に立って浴槽に向かい、先に湯船に入る。
 いくらか濁った湯と、時々上る湯気のおかげで股間は見えにくい。
 アステはさっきよりはましだがまだためらう素振りで、でも俺が入ったからか意を決したように飛び込んだ。
 ざばっ、と湯が跳ね――
「きゃぁっ!」
 足を滑らせたアステが転びそうになるのを受け止める。
 後ろから抱き留めた格好で、下が当たらないように腰を引いて、ゆっくりと彼女を湯の中に下ろしてゆく。
「ゆっくり入ればいいから、な」
「う――うん」
 並んで座る。
 肩まで浸かって、「あぁ……」と吐息のような声を漏らして俺の鼓動がまた早まる。
「気持ちいい?」
「ん……不思議な感じがする」
 そう答えながらも、支えている手には強張りが解けて力の抜けるのが伝わってくる。
 さっきの疑問をもう一度投げかけてみる。
「そういえば、さっき『たぶん』って言ってたけど、宇宙船では体洗ったりしなかったのか?」
 アステはしばらく無言でいたあと、ぽつりと言った。
「わたし、密航してきたから……」
 想像していなかった答えだった。
「どういうこと? あ、いや、話したくなかったら無理にはいいけど――」
「ううん、ユーミには、いい」
 アステは俺を見上げてそう言う。
「わたしは、調査船団がどこかで寄るだろう異文明の惑星に行きたかった」
 横顔が急に大人びて見えて、ドキッとする。
 あの数々の傷痕が、密航などという手段を採ってまで、彼女にとっての新天地を求めさせることになった原因だろうか――そう想像すると踏み込んで訊けなかった。
 質問を少し変えてみる。
「じゃ、じゃあ、あのデカいの――攻性機獣、だっけか――に追われてたのは、調査船団の警備に見つかったとか?」
 これも、気にはなっていた。
 何故、アステは攻性機獣に追われ、あの時怯えていたのか。
 真子の説明では、テロリストがあの攻性機獣を操り、彼らに攻撃を仕掛けているという話だった。それが本当なら軌道エレベーターと関係のなさそうな、それも密航者のアステ一人が乗った小型船――これが、調査船団から地球に向かって秘かに脱出したものだとして――を追い回すようなマネをするだろうか。
 テロリストがアステを攻撃対象にする理由が解らない。
 調査船団があいつらを飼っている、と考えるのがシンプルな気がした。
 しかし、アステは首を振った。
「あれは、調査船団のものじゃない。
 ――生物の住めなくなった惑星の名残。
 そしてわたしも、その惑星の生まれなの」
 アステが、俺に体を預け気味にしてきていた。
 肌が密着する感触に、脳天と股間の二箇所に血液が集中して沸騰しそうになる。
「これまでも見たことはあったけど、あんなに大きいのは初めてで、ましてそれがわたしに襲いかかってくるなんて……」
 体を震わせるのが触れあった肌を通じてダイレクトに伝わる。
「こ、ここにいたら――大丈夫だ」
 声が上擦っていた。
「お、俺が守るし――なっ」
 アステが一瞬驚いたような目で俺を見て、それから微笑む。
「ありがとう、ユーミ」
 控えめだが心にきゅんと響く、初めての彼女の笑顔だった。
 その時、浴場の入り口がガラガラと開いた。
 振り返る――入ってきたのは、慧だった。
 小さく鼻歌まじりだったのが、俺とアステに気付いて「あら」と呟く。
「なかなか梨香さんのところに来ないと思ってたら、まだお風呂中だったんだ」
 と、浴槽に近寄ってくる。
 慧の話し方は、ハンガーの時と同じゆっくりめだった。
 タオルを前にしているが、ほとんど隠せていないサイズの胸がゆさっと揺れる。
「こんな髪だったんだね、綺麗――」
 腰を下ろして、アステの髪に触れる。俺とアステの間にあった同時通訳機を見て、それを取り上げた。
「私は、日名森慧。慧って呼んで。
 あなたは?」
 翻訳させて、アステの名を聞く。「アステさんね。よろしく」そう微笑む。
 俺は色々なものの限界を感じ、上半身を湯から出した。
 慧が、俺の胸を見て笑みを強める。
「うん、やっぱり侑実のほうが合ってるよね」
「よっ――よしてくれよ。
 アステ、そろそろ上がろう」
 タオルで股間を隠して風呂から上がる。慧から翻訳機を取りタオルと一緒に持って、もう片手をアステに向かって伸ばす。
「メディカルチェックで梨香のところに行かなきゃな、っ」
 早口になっていた。
「残念。まぁ、またゆっくり話しようね。侑実も、アステも」
 慧はそう言って、手近な桶を取った。
 持っていたタオルを俺の顔に押しつけてくる。
 一瞬、慧の裸体が視界に飛び込む――が、すぐに目の前がタオルに覆われ、それが見る見る内に紅く染まってゆく。
 慧が手を放して落ちそうになったタオルを受け止め、折って白い面を鼻に当てる。
 鼻血が溢れていた。
「――ユーミ?」
「だ、大丈夫。ちょっと興奮しすぎただけだから……っ」
 かけ湯を始めていた慧が笑いながら言う。
「アステ、心配しなくても大丈夫よ」
 どう返したらいいか迷って、結局「すまない……」とだけ言う。
「気にしなくっていいよ。ほら、梨香さんのところ行っておいで」
 股間と鼻へのタオルで両手を塞がれてしまったためか、アステは俺の肘をちょんと掴んでいた。
 その感触が、鼻血の流出を止めさせてくれない。
 少しクラクラしながらも俺とアステは脱衣所へ戻った。
 扉を閉める直前の風呂場から「あぁ~、やっぱり大きいお風呂はええわぁ」と言う声が聞こえてきた。

 俺とアステには同じ形の、短めのワンピースが用意されていた。
 俺には膝下ぐらいの丈のパンツもあった。それで妥協しろ、ということか。文句を言う相手がここにいない上に他に着れるものはなさそう――着てきた服は消えていたし、慧の服を拝借するなんて選択肢はありえない――で、溜め息と共にそれを着る。
 俺の下着は自分のボクサーだったから、まだ気持ちを保てた。アステには、いかにも女子もののショーツだった。
 見様見真似で、アステも自分で着る。
 病院着のような、シンプルなワンピースだった。これから診察と考えると、仕方ないかとも思える。内側に胸を支える格好の柔らかい布地があり、ウエストがやや細くなっているのが気にはなるが。
 ドライヤーで自分とアステの髪を乾かし、籠に入れられているヘアゴムでアステの髪を軽く括る。
 ――血を出したせいか、入ってきた時より少し落ち着いて見たら、女子の脱衣所は鏡も大きく、ドライヤーもなんだか良さそうなもので、他にも今のゴムだとか化粧水か何かの類が何種類もあったりだとか色々充実していて、ドライヤーと扇風機とヘルスメーターと剃刀ぐらいしかない男の方とは随分な差があった。
 ちょっと羨ましく感じて――頭を振って追い出そうとする。
 男の俺がここに並んでいるものの、何を使うんだ。
 見上げるアステに苦笑を見せて、その手を引いた。
——————–

(ここに至るまでの話とここからの展開は、本編をぜひご覧ください!)

本編へつづく

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